心下振水音で麻黄を回避 小青竜湯ではなく苓甘姜味辛夏仁湯
- 2019.10.31
- 漢方処方119番

症例
43歳 女性 花粉症
西洋剤では眠くなると花粉症の漢方治療を希望して来院
フローチャートに従って小青竜湯を処方しようと心に決める。
患者さんがすくなく腹診を行う。
臥位で膝と伸ばして腹壁の緊張を見て、心下痞鞕、胸脇苦満、小腹硬満などをチェック。最後に膝を曲げてもらって胃の部分をタップするとチャポチャポと音がする。著明な心下振水音。
心下振水音は麻黄がダメというサイン。
腹診をしてよかった。処方を変更しないと。
苓甘姜味辛夏仁湯を処方する。
(再診時)
西洋薬の内服量が減って快調と。不快な作用はないと
解説
古典には小青竜湯に心下に水ありいう記載があります。これを心下振水音があると説明している本もあります。ところが、これは心下に水毒があるということであって、心下振水音ではないそうです。心下振水音が小青竜湯の目標では困るのですね。
だって心下振水音があれば麻黄がダメというヒントで、そして小青竜湯にはその麻黄が含まれているのですから。ぼくの今までの経験では心下振水音があるときには小青竜湯は不向きと思っています。
麻黄剤ではない苓甘姜味辛夏仁湯や人参湯、苓桂朮甘湯などを上手に組み合わせて対処するという合図と理解しています。腹診が処方選択に有益であった症例です。
なお、忙しいときには敢えて腹診はやっていません。腹診で処方が変わる頻度は僕の外来では1割です。腹診は出来ればやりますが、敢えて全員に施行する時間的余裕がないのです。ごめんなさい。患者さん。
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Author:新見正則 投稿一覧
1985年慶應義塾大学医学部 卒業 1998年英国オックスフォード大学医学部博士課程 移植免疫学にてDoctor of Philosophy (D-Phil) 取得 2002年帝京大学外科准教授 2013年ハーバード大学にてイグノーベル賞受賞。帝京大学医学部附属病院において国内で初めて保健診療のセカンドオピニオン外来(外科一般)を開設し、その普及に尽力してきたパイオニア。テレビや新聞などメディアでの紹介も多数。西洋医であるとともに漢方医でもあり、同科血管外科グループにおいて血管、漢方、未病、冷え症の各外来を担当。日常生活や食生活の改善指導、西洋薬・漢方薬の処方により、多くの患者の症状を改善してきた実績を持つ。