【症例集】認知症に抑肝散 失敗例 やっぱり認知症には運動だ!
- 2019.10.12
- 漢方処方119番

症例
90歳代 女性 (僕の母)
「お風呂に一緒に入ったおじさんだれだい」と母が家内に尋ねている。
「あなたの息子さんですよ」 (僕のことだ)
母の認知症は着実に、確実に進んでいる。
抑肝散を数年投与したが認知症の進行防止には効かなかった。
解説
ひとつの症例が無効であっても、その薬の効果を否定してはいけないことは重々承知しています。しかし、患者にとっては自分にだけは効いてほしいですね。母の認知症も抑肝散で劇的に効いてくれれば、漢方のお株もものすごく上がったことでしょう。しかし、残念ながら着実に確実に進行しています。調子がいいときは、息子(僕)、家内(嫁)、孫(僕たちの娘)が認識できます。凶暴性はありません。抑肝散が認知症患者の凶暴性を抑えることに有効であることは、複数の報告があります。母が穏やかに呆けていくことが、抑肝散のお陰と思ってもいいのかもしれません。ちょっとひいき目過ぎるきもしますが。
たくさんのお年寄りを拝見していて、呆けない方法のひとつは、歩くことと指先を使うことではないかと思っています。そんな僕の臨床での経験から、母には2年前より大防風湯を処方しています。膝痛による歩行困難はなんとか回避しています。そしてボケの進行がゆっくりに思えます。ボケに抑肝散というフローチャート的な処方も有効かもしれませんが、すこしでも歩ける時間が延びるように、そして元気が出るような漢方薬を処方する方法もいいなと思っています。体全体をみて元気にするというむしろ漢方らしい処方方法と勝手に思い込みながら、母と一緒のお風呂に入っています。今日は息子とわかるでしょうか。
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Author:新見正則 投稿一覧
1985年慶應義塾大学医学部 卒業 1998年英国オックスフォード大学医学部博士課程 移植免疫学にてDoctor of Philosophy (D-Phil) 取得 2002年帝京大学外科准教授 2013年ハーバード大学にてイグノーベル賞受賞。帝京大学医学部附属病院において国内で初めて保健診療のセカンドオピニオン外来(外科一般)を開設し、その普及に尽力してきたパイオニア。テレビや新聞などメディアでの紹介も多数。西洋医であるとともに漢方医でもあり、同科血管外科グループにおいて血管、漢方、未病、冷え症の各外来を担当。日常生活や食生活の改善指導、西洋薬・漢方薬の処方により、多くの患者の症状を改善してきた実績を持つ。