蒼朮(そうじゅつ)と 白朮(びゃくじゅつ)・漢方医による生薬解説18

蒼朮(そうじゅつ)と 白朮(びゃくじゅつ)・漢方医による生薬解説18

朮は『神農本草経』では上品として収載されています。傷寒論には朮を構成生薬とする漢方薬は多数含まれています。「蒼朮」として生薬が漢薬の文献に登場するのは、五世紀末です。それ以前は朮として記載されており白朮との違いは明らかではありませんでした。

現在、朮には蒼朮と白朮があり、この二つの差異を語る歴史が混乱を極めています。

第17改正日本薬局方には以下のように記載されています。

  • ATRACTYLODIS LANCEAE RHIZOMA 蒼朮
    本品はホソバオケラAtractylodes lancea De Candolle, Atractylodes chinensis Koidzumi 又はそれらの雑種(Compositae)の根茎である
  • ATRACTYLODIS RHIZOMA 白朮
    本品は1)オケラ Atractylodes japonica Koidzumi ex Kitamuraの根茎(和ビャクジュツ)又は2)オオバナオケラ Atractylodes macrocephala Koidzumi (Atractylodes ovata De Candolle) (Compositae)の根茎(唐ビャクジュツ)である

つまり現在の日本では蒼朮と言えばホソバオケラで、白朮と言えばオケラまたはオオバナオケラなのです。これは日本薬局方による決まりです。

蒼朮はキク科の多年草であるホソバオケラの根茎です。白朮はキク科の多年草であるオケラまたはオオバナオケラの若い根です。古来白朮は邪気を払うと信じられ、お正月には欠かせないお屠蘇も、本来は邪気を追い払う効果を持つとされた屠蘇散をお神酒に浸けて飲み、疫病を除くために祈願したのが始まりとされています。ですから屠蘇散には白朮が含まれています。

松田邦夫先生のクリニックに伺うと、僕は生薬が収められている百味箪笥の前に立って、引き出しを開け、そして生薬の形を見て、臭いを味わうことが大好きです。もっとも好きな臭いは蒼朮で、高級な蒼朮にはなんと白い結晶がまとわりついているのです。そんな白い結晶がある蒼朮ほど高級品とされているのですが、生薬問屋の方に聞くと、なんとその白い粉をカビと勘違いして時々クレームが来るそうです。ものの本物の価値がわからないとある意味恥をかきます。一方で白朮には蒼朮のような白い結晶が多量に着くことはなく、また臭いもまったく異なります。

そんなまったく違う生薬が蒼朮と白朮として、混乱を極めていたとは想像できません。1823年に日本に来たシーボルトが、なんと当時長崎にあった白朮と蒼朮をドイツに持ち帰っているのです。それが残っており、その二つと現代の白朮と蒼朮を比べる報告などもあります。しかし、それ以前の蒼朮と白朮がいったいどんなものであったのかは不明です。DNA鑑定もなく、写真もなく、絵もほとんど残っていない状態では、どれがどれかは判然としないのです。ある意味ミステリーです。僕はそれでいいのではと思っています。今ある、白朮と蒼朮の有用性を今後検討すればいいのです。DNA鑑定と写真がある現在の情報は将来間違って語り継がれることはないのですから。

朮が処方名と関係する漢方エキス剤は苓桂甘湯、桂枝加附湯、苓姜甘湯、半夏白朮天麻湯、二湯、葛根加附湯、桂枝加苓附湯などです。漢方エキス剤の約3分の1に蒼朮または白朮が含まれています。医療行政上は蒼朮と白朮の選択はどちらでも良いことになっています。

 

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ホソバオケラ 画像提供:ツムラ