甘草(かんぞう)・漢方医による生薬解説19
- 2019.01.05
- 生薬の種類

甘草は中国に産するマメ科の多年草のカンゾウの根および根茎です。甘草は文字通り甘く、生薬を口に入れるとその甘さを実感できます。中国から輸入されますが、輸入品の9割近くが漢方薬ではなく醤油などの食料品として使用されています。最近、麻黄とともに甘草は中国の輸出規制問題が持ち上がっています。甘草は根から地中深く掘り起こされるため、中国西北部の砂漠化などの環境破壊の原因として数々の規制政策がとられてきています。
甘草は『神農本草経』の上品に収載されている生薬で,解毒や諸薬の調和など多数の効を有し,「国老」とも称される重要な生薬です。日本にもたらされた時期は不明確ですが,正倉院薬物として現存していることから,8世紀にはすでに日本にあったことがわかります。
かつて甘草の栽培は日本においても行われていました。甲州では古くから栽培されており、大永五年(1525)の薬種寄附状の記載にまで遡ることができます。また江戸時代の享保五年(1720)に,甲州上於曽村(現在の山梨県塩山市)の伊兵衛の屋敷では甘草が栽培されていました。伊兵衛の屋敷は,後に「甘草屋敷」と称されるようになりました。しかし,江戸時代から現在に至る間に甘草の栽培は廃れ,現在の日本では商業的な規模での栽培は行われていません。
現在中国では甘草の自生地などで栽培が行われていますが,日本薬局方カンゾウにおけるグリチルリチン酸含量の規定値(2.0% 以上)を超える薬材を産出するのには数年かかります。近年,日本では水耕栽培により,短期間でグリチルリチン酸含量の規定値を超える根が生産できることが発表されました。
甘草は漢方薬の3/4に含まれている使用頻度が高い生薬です。主成分はグリチルリチンでグリチロンという商品名で販売されています。グリチルリチンを多量に長期間服用すると血圧が上昇し、足がむくみ、そして血液中のカリウムが減少することがあります。これを偽アルドステロン症と言いますが、徐々に出現するので、過剰な心配は不要です。血圧が上昇したり、足がむくんだ時などは偽アルドステロン症も疑いましょう。高齢の女性では発症頻度がやや高まると言われています。また、利尿剤を飲んでいて常日頃からカリウムが低い傾向にあるときも要注意です。
第17改正日本薬局方には以下のように記載されています
- カンゾウ Glycyrrhiza GLYCYRRHIZAE RADIX 甘草
本品はGlycyrrhiza uralensis Fischer 又はGlycyrrhiza glabra Linné (Leguminosae)の根及びストロンで,ときには周皮を除いたもの(皮去りカンゾウ)である.
本品は定量するとき,換算した生薬の乾燥物に対し,グリチルリチン酸(C42H62O16:822.93) 2.0%以上を含む.
甘草が処方名と関係する漢方エキス剤は芍薬甘草湯、大黄甘草湯、苓甘姜味辛夏仁湯、苓桂朮甘湯、苓姜朮甘湯、甘麦大棗湯、芍薬甘草附子湯、甘草湯などです。

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