杏仁(きょうにん)・漢方医による生薬解説20
- 2019.01.05
- 生薬の種類

杏仁はアンズの種です。桃仁はモモの種です。ともに果肉を食べた後の種を割って、中から出てくる種子です。アーモンドのようなものとイメージすると解りやすいです。アーモンドはモモやスモモ、アンズの親戚ですが、こちらは果肉は食用になっておらず、種の中の種子のみが、アーモンドとして流通しています。
杏仁は、夏の果実が成熟した頃、果実の中の堅い核を砕いて種子を取り出し、乾燥するのです。「杏仁」は『神農本草経』の下品に「杏核仁」という名で収載されています。
第17改正日本薬局方には以下のように記載されています
- キョウニン Apricot Kernel ARMENIACAE SEMEN 杏仁
本品はホンアンズPrunus armeniaca Linné ,アンズPrunus armeniaca Linné var. ansu Maximowicz 又は Prunus sibirica Linné (Rosaceae)の種子である.
本品は定量するとき,換算した生薬の乾燥物に対し,アミグダリン 2.0%以上を含む.
とあります。過去の『日本薬局方』では「杏仁」の原植物に「その他近縁植物」も含まれていましたが,第13改正第1追補以降でホンアンズとアンズに限定されました。なお,食して甘みのあるものを甜杏仁,苦いものを苦杏仁と呼び,前者を食用に,後者を専ら医療用に利用します。アミグダリンが杏仁の基準を満たすと薬用の苦杏仁、他は食用の甜杏仁になります。
「杏仁」の修治として,古来「皮尖を去る」という方法が行われてきました。先ず,杏仁を数分間ぬるま湯に浸して皮(種皮)を軟らかくし,杏仁の尖った部分をつまんで取り去り,膨らんだ部分を押すと簡単に皮が剥がれます。皮を剥がした後は,杏仁に含まれる脂肪油が酸化されやすくなることから,この修治は使用直前に行うのがよいでしょう。修治とは生薬に手を加えるということです。中国では修治は多くの生薬で行われますが、和漢では修治は最小限に留められています。
杏仁と桃仁はともに生薬で、形もよく似ていますが、杏仁は主に鎮咳作用が、一方で桃仁には主に駆瘀血作用があり、まったく作用は異なります。面白いですね。
杏仁が処方名と関係する漢方エキス剤は麻杏甘石湯、麻杏薏甘湯、苓甘姜味辛夏仁湯、桂枝加厚朴杏仁湯などがあります。

-
前の記事
甘草(かんぞう)・漢方医による生薬解説19 2019.01.05
-
次の記事
石膏(せっこう)・漢方医による生薬解説21 2019.01.05