【論文解説】槐耳(カイジ)のランダム化比較試験で有意差が発現

【論文解説】槐耳(カイジ)のランダム化比較試験で有意差が発現

槐耳(カイジ)という生薬があります。漢方専門家には以前から有名だったのですが、2018年一部のがんに対する優位性を証明する研究結果が英国の専門誌BMJ GUTに掲載されました。この研究は「ランダム化比較試験」といい、大変信頼に足る成果です。今回は新見正則が槐耳の論文について解説します。

1.槐耳とは

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槐耳は、えんじゅの木に発生するサルノコシカケ科のキノコです(出展:new.qq.com)

槐耳は日本語ではカイジと読みます。槐(えんじゅ)の古木に寄生するキノコです。槐耳という記載は東晋時代(317年〜420年)の「肘後備急方」に記載が見られ、明代の李時珍が書いた有名な生薬書である「本草綱目」にも登場します。

そしてしばらく姿を消し、その後1970年代末に肝臓癌に著効したという報告から脚光を浴び、中国衛生部(日本の厚生労働省に相当)が研究開発をスタートさせ、20年の歳月をかけて、中国において漢方第一類抗癌新薬となりました。

東晋時代や明代の槐耳が現在の槐耳と同じ物かどうかは、写真もなくDNA鑑定も出来ないので詳細は不明です。槐耳の中国での登録商標は金克で、Jinkeと読みます。中国での薬登録番号はZ-20000109です。主にがんに使用されています。

肝臓癌に対して臨床応用が始まりましたが、さまざまな領域の悪性腫瘍で効果が認められています。中国では抗がん剤ですが、日本には食品として輸入されています。主成分はPS−T(Polysaccharide-Trametes robiniophilal Murr)という6種類の糖と18種類のアミノ酸が結合した多糖蛋白です。

槐耳黄精枸杞子を加えたものを槐杞黄(Huai Qi Huang)として呼吸器疾患や腎疾患などに使用されています。こちらの薬登録番号はB-20020074です。

2.シビアな「二重盲検検査」「ランダム化比較検査」について

実は槐耳は、今までにたくさんのがん領域に対する医学論文が発表されています。「槐耳を使って○○がんが良くなりました」と言った報告です。

こんな報告も勿論貴重な情報なのですが、人を説得するには実は十分ではありません。医者も患者も効いていると感じても、その薬剤が本当に有効であるかは、二重盲検臨床研究で確認されます。思い込みや他の治療の影響、プラセボ効果と言ったものを排除できないからです。

二重盲検臨床研究では本物の薬(実薬)と、本物と鑑別不能で有効成分を含まない薬(偽薬)を、処方する医者もそれを飲む患者さんも実薬か偽薬かをわからない状況で投与し、そして確認すべき効果項目をあらかじめ決めておいて、内服後に調べ、そして最後に実薬であったか偽薬であったかを明らかにして、実薬が偽薬に比べて明らかに統計的有意差があるときに、誰をも説得できる結果となったと言われます。

明らかなエビデンスがある薬とは二重盲検臨床研究で好成績を得た薬のことなのです。次のレベルはランダム化臨床研究で、患者さんを強制的に2群に分けて、実薬を飲んでもらって、そして効果を判定します。漢方や生薬では多くの場合、色や匂いや味がまったく同じ偽薬を創ることが困難なので、致し方なく二重盲検臨床研究ではなくランダム化臨床研究になるのです。

二重盲検臨床研究は西洋薬剤が厚生労働省から保険適用薬として認可されるには必須の試験です。一方で、本邦で使用されている保険適用漢方エキス剤はこの二重盲検臨床研究を勝ち抜いて薬剤になったのではなく、「長い歴史で有効と考えられているから良いだろう」といった思いで、保険適用漢方エキス剤として認められています。超法規的と言えばその通りですが、まったく実薬と同じ偽薬が創りにくいことを鑑みると致し方ないでしょう。

また、サプリメントや健康食品で、二重盲検臨床研究を勝ち抜いたものはありません。また、勝ち抜こうという意気込みで現在二重盲検臨床研究に挑んでいるものも存在しないと思っています(この点に間違いがあるときは是非、当方にお知らせ下さい)。そしてその一つ下のレベルのランダム化臨床研究に挑んでいるサプリメントや健康食品もほとんどありません。二重盲検臨床研究やランダム化試験に勝ち抜いた結果は、当然素晴らしいものなので一流英文誌に掲載されます。

3.槐耳に有意差が出た「ランダム化臨床研究発表」の内容

そして、なんと槐耳は肝臓癌に対して、ランダム化臨床研究に勝ち抜き、そして超一流英文誌「GUT」に掲載されました。参照リンク:https://gut.bmj.com/content/67/11/2006

この研究も最初は二重盲検臨床研究で登録されましたが、実薬とまったく同じ偽薬が創れずにランダム化臨床研究になっています。

その概要は、39施設での根治手術後の肝臓癌1,044例に対して、槐耳を飲んだ群686例飲まない群316例を比べました(脱落例があるので足し算が合いません)。再発なし生存を第一の評価項目に、生存率を第二の評価項目にしての解析です。96週後までの無再発率は槐耳投与群で62.39%、一方偽薬群では49.05%となり、明らかな有意差を認めました。また、96週後の生存率は槐耳投与群で95.19%、偽薬群で91.46%とこちらでも明らかな有意差を認めました。96週までの肝臓外での腫瘍再発率は、槐耳投与群で8.60%、偽薬群で13.61%でした。実薬群では槐耳は20グラムを毎日3回飲ませました。

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上から無再発率、生存率、肝臓外での腫瘍再発率。いずれもカイジの服用群のほうが予後が良好だった

4.その他の研究も進行中

この二重盲検臨床研究やランダム化臨床研究が信頼に足る一つの証拠として、「あらかじめ行うことを公的な機関に宣言してから実施」するのです。そうしないと後から評価項目などを変更可能だからです。一番有名な登録場所は、ClinicalTrials.gov です。これは米国国立衛生研究所(NIH)米国医薬食品局(FDA)が共同で、米国国立医学図書館(NLM)を通じて行われている治験および臨床研究に関するデータベースです。このClinicalTrials.govに登録されて、そして抗がん作用結果がでたものがこの論文ですが、これ以外にもいくつもの槐耳の臨床研究が現在進んでいます。大腸癌が3件、乳癌が2件、肝臓癌が2件、そして非小細胞肺癌、閉塞性黄疸などです。非小細胞肺癌は現在二重盲検臨床研究で進行中です。今回紹介した研究もClinicalTrials.govへの登録時は二重盲検臨床研究でしたが、まったく同じ実薬と同じ色で味で臭いの偽薬を創ることが当時はできなかったのでランダム化臨床研究になっています。

5.本気度がケタ違いに高いのは槐耳だけ

まず、このClinicalTrials.govに登録して癌に対してランダム化臨床研究を行おうとしている日本のサプリや健康食品、そして日本の漢方薬(和漢)はなにひとつありません。槐耳の本気度が見て取れます。そしてなんと今回の論文にあるように抗がん作用でランダム化臨床研究に勝ち抜いたもの、そして一流英文誌にその結果が載ったものは他のサプリや健康食品には見当たりません。そして現在癌に対して二重盲検臨床研究が進行中の日本のサプリや健康食品、そして日本の漢方薬(和漢)はありません。他のサプリや健康食品の効果を全面的には否定はしませんが、使用するのであれば、まず御利益が明らかになったものを最優先に使用することが科学的思考だと思います。

注) 日本語では「がん」と「癌」は実は異なります。中国語には癌しかありません。ここでは肝臓癌として統一して使用しています。

6.まとめ

・槐耳は中国において漢方第一類抗癌新薬です。

・槐耳はランダム化比較試験において、無再発率、生存率、肝臓外での腫瘍再発率の有意差が認められました。

・二重盲検検査やランダム化比較試験という信頼のおける研究で、世界的に認められた学術誌に肝臓癌における有意差が掲載されたのは槐耳だけです。