茯苓(ぶくりょう)・漢方医による生薬解説17
- 2019.01.05
- 生薬の種類

茯苓は各地に自生する松の樹を切り倒した後の根に寄生するサルノコシカケ科のマツホドの菌核です。
木村孟淳先生の本(漢方生薬学)から以下を引用します。。
ダンプカーの運転手から聞いた話。森林だった山を造成していると、たまに松の切り株の根に堅いイモのようなものが見つかることがある。一つみつかると、たいていは同じ株にたくさん着いているので、仕事はおっぽりだし、ひっくり返して徹底的に取る。ブルドーザーがあるので掘ることはなんでもない。漢方薬屋で買ってくれるところがあるので持って行くと、仲間で一杯飲む位のお金にはなるというのである。
マツホドは松に寄生する真菌類ですが、松類以外にも寄生します。しかし、生薬としては松類以外に寄生したものは商品価値がないそうです。最初は生きた根の皮部に潜り込むように菌糸を伸ばし、宿主が生きている間はおとなしく、宿主からの栄養をもらっています。ところが宿主が死ぬと栄養が不足するので、徐々に松の根を食い尽くして徐々に数年かけて菌糸の集合体である菌核を形成するのです。
薬用には菌核の状態のものを使用します。11月から3月に、数年前に枯れた、または伐採した松の周囲を「茯苓突き」という鉄の細い棒で突き刺して、その手の感触と抜いた時の付着物から茯苓の場所を確かめ、掘り出すそうです。職人技ですね。
一方で最近は中国では茯苓の栽培も行われています。栽培品は天然品に比べて安く、よって多量に日本に輸出されています。
サルノコシカケ科のきのことしては霊芝も有名です。霊芝は抗がん作用があると言われていましたので、漢方医はがんの患者さんへの処方には霊芝を加えることがありました。この霊芝は保険適用漢方エキス剤に含まれていません。しかし、霊芝も大規模臨床試験でがんに有用という結果は出ませんでした。大規模臨床試験でがん治療に対して有意差が出たのは2018年に超一流英文雑誌『GUT』に掲載されたフアイア(Huaier)が最初で、現状唯一の臨床研究です。
茯苓は利水作用があります。利水とは「水のアンバランスを改善する」と理解すれば整合性が合います。「この漢方薬は利水剤だ」と言い放つには、構成生薬に茯苓、白朮、蒼朮、沢瀉、猪苓、半夏、防已の中のふたつ以上があれば、和漢ではOKです。
茯苓が処方名と関係する漢方エキス剤は桂枝茯苓丸、茯苓飲、苓桂朮甘湯、苓姜朮甘湯、苓甘姜味辛夏仁湯、桂枝加苓朮附湯などです。ちなみに五苓散の苓は茯苓ではなく猪苓です。
第17改正日本薬局方には以下のように記載されています。
- ブクリョウ Poria Sclerotium PORIA 茯苓
本品はマツホド Wolfiporia cocos Ryvarden et Gilbertson (Poria cocos Wolf) (Polyporaceae)の菌核で,通例,外層をほとんど除いたものである.

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