アスピリンと漢方【西洋医×漢方医のコラム】

アスピリンと漢方【西洋医×漢方医のコラム】

「薬の王様はなにか?」と質問をされたときに、僕は「アスピリン」と答えています。アスピリンはアセチルサリチル酸という物質です。ドイツのバイエル社の商標名ですが、日本薬局方(厚生労働大臣が公示する本邦で使用されている薬の規格基準書)にも「アスピリン」として載っています。

なぜ王様かというと、3つ理由があります。

1)アスピリンは世界で始めて人口合成された医薬品だからです。ギリシャ時代からヤナギに鎮痛作用があることは知られていました。ヤナギの爪楊枝には歯痛を鎮める効果があったという人もいます。そんなヤナギから19世紀にサリチル酸が分離されました。サリチル酸は素晴らしい鎮痛解熱効果がありましたが、胃腸障害が甚だしいという大問題を抱えていました。そこで、サリチル酸がアセチル化されたアセチルサリチル酸、つまりアスピリンが登場したのです。なんと1899年にバイエル社によって商標登録され、そして1900年には錠剤化されています。1900年とは丁度、日清戦争と日露戦争の間です。約120年も前に登場したくすりなのです。

2)そんな昔のくすり、つまり最初に化学合成された薬が今でも使用されていることです。科学は進歩します。医療も医学も薬学も進歩します。そんな進歩に逆らうように、アスピリンはいまでも医療現場で使われ、薬局に置かれ、そしてCMで流れたりします。すごいですよね。歴史があり、世界中で今でも使用されている薬というのは、それだけ副作用や効果がわかっていると言うことです。ところがその作用機序が判明したのは1971年で、アスピリンがプロスタグランジンという物質の合成を阻害すると解ったのです。その業績で1982年にノーベル賞が、ベイン、サムエルソン、ベルクストロームの3人に送られています。ある意味、臨床的な有用性は十分に解っていたが、その機序は70年後にやっと解明されたということです。

3)「アスピリン」がいろいろな病気に効いているということです。まず、開発の経緯は鎮痛剤として出発しています。鎮痛解熱剤という概念すらない時代に、痛みを抑える薬を開発したかったのです。そして見事に人工合成にも成功し、痛みで困っている人々に福音をもたらし、そしてそれは21世紀の今でも利用価値を認められています。それだけ長く飲まれていると、いろいろな相関が解ってきます。つまりなぜということは二の次にして、アスピリンには、脳梗塞や虚血性心疾患(狭心症と心筋梗塞のことです)を予防する効果があったのです。この場合アスピリンは少量を飲むことが大切です。少量のアスピリンの服用は血小板機能を抑制して血栓の形成を妨げることが判明しています。血小板は血液を固まらせる作用を持つ血液内にある細胞がちぎれた破片です。その作用を弱めると血管を閉塞させる血栓の形成を弱めるので閉塞性の血管病変には有効なのです。同じ理由で、動脈硬化症や深部静脈血栓症、エコノミークラス症候群にも有効とも言われています。本邦の死因の2番目が心疾患、3番目(年によっては4番目)が脳血管障害で、それらにも有効な可能性が高いということです。素晴らしいでしょ。そして癌にも有効かもしれないという臨床試験も登場しています。特に大腸癌で有効性は確認されつつあります。
アスピリンに大腸がんの予防効果があった!

がんは日本人の死医の第一位で毎年約38万人ががんで亡くなっています。そして大腸がんで亡くなる人数は毎年約8万人です。そんな大腸がんの、ひいてはがんの予防にアスピリンが有効であったら、やっぱりアスピリンは王様の中の王様になりますね。

さらに補足として、費用の安さもあります。なんと100mgで医療保険上は5.6円です。予防効果には通常この量が使用されます。1ヶ月で約200円です。鎮痛効果を出すにはこの数倍の量が必要ですが、でもとんでもなく安いですね。そうであれば、臨床研究で明らかな差がでなくても、なんとなく有効なら毎日飲もうという人もいると思います。実際にアメリカなどでは、毎日少量のアスピリンを飲んでいる人は多数いるのです。ある意味サプリメントの気分で。だって、通常のサプリメントの値段よりも断然安いのですから。となると問題は副作用です。実はサリチル酸に比べて遙かに胃腸障害の頻度は減ったと言っても、やはり胃腸障害は重大な副作出、まれに胃から出血したり、胃に穴があくこともあります。また腎機能障害やアスピリン喘息も副作用です。子供にアスピリンを使用するとライ症候群という致死的な副作用も起こりえます。医薬品は基本的に「両刃の剣」です。効果があると言うことは、それ相応の副作用も当然にあるのです。

ですから、たくさんの理由で、僕にとっては薬の王様の「アスピリン」も、内服するときは主治医と相談して、利点・欠点、効果と副作用を理解してから内服しましょう。

費用の安さでは漢方も負けていません。本当に安いです。そして、副作用の少なさでも漢方も負けていません。漢方は食事の延長のイメージとお話しています。アスピリンの様な重篤な副作用は漢方ではまずありません。漢方は安価で、重篤な副作用は稀なのですから、困っている時はまず使ってみるという立ち位置で問題ないと思っています。アスピリンのようなエビデンスが集積されていないことがちょっと残念ですね。